収穫
2009.05.31 Sunday
3月下旬にまいたグリーンピース。
1つのさやから出たのは8粒の豆。それが芽をだし、1本だけは枯れましたが、残りの7本は元気に伸びてくれました。
始めた時期が遅かったからか、他のところで見る苗より高さが半分くらいしかなく、私をくやしがらせましたが、低いなりにちゃんと葉をつけ、つるを伸ばし、花を咲かせてくれました。
その成長には驚くばかりで、土に植えてから1ヶ月半には花をつけているのですから、まさにあれよあれよというかんじでした。私と栗栖氏は、目を細くして見守るというよりは、目を丸くして見つめていました。
花が落ちてからがまた早かった。小さかったさやが、中の実の形がわかるくらいふくらむのに1週間もかかりませんでした。
「3日で普通のさやの大きさになるんだよ」
毎日観察していた栗栖氏は、感心したように報告してくれました。
心配だったのは虫でした。アブラムシはつかなかったのですが、エカキムシ(ハモグリバエ)というのが葉の中に住みつき、白い線をうねうねと作ってくれました。おかげで最後のほうは葉はぜんぶ枯れ、茎とさやだけが緑を残していました。
「早く取らないと、実まで食べられてしまう」
あせった栗栖氏の号令のもと、平日の仕事帰りの夜、はさみを手に2人で収穫しました。さやを開けてみると、2粒ほど青虫にかじられていました。危ないところでした。
収穫は約30粒。
器に入れると少なくも感じましたが、7粒から、たった2ヶ月でこれだけ増えたことを考えると、感慨深いものがありました。最初は捨てるつもりだったグリーンピース。その豆から、芽が出てき、また新たな豆をもうけて。1粒の麦もし死なずんば……という言葉を思い出しました。
なんの料理にしようかと迷いましたが、量もあまりないことですし、スープの中に入れることにしました。
小さな豆からは、あおあおとした緑の味がしました。あびた陽光と、まいた水と、作った土の時間の味がしました。
1つのさやから出たのは8粒の豆。それが芽をだし、1本だけは枯れましたが、残りの7本は元気に伸びてくれました。
始めた時期が遅かったからか、他のところで見る苗より高さが半分くらいしかなく、私をくやしがらせましたが、低いなりにちゃんと葉をつけ、つるを伸ばし、花を咲かせてくれました。
その成長には驚くばかりで、土に植えてから1ヶ月半には花をつけているのですから、まさにあれよあれよというかんじでした。私と栗栖氏は、目を細くして見守るというよりは、目を丸くして見つめていました。
花が落ちてからがまた早かった。小さかったさやが、中の実の形がわかるくらいふくらむのに1週間もかかりませんでした。
「3日で普通のさやの大きさになるんだよ」
毎日観察していた栗栖氏は、感心したように報告してくれました。
心配だったのは虫でした。アブラムシはつかなかったのですが、エカキムシ(ハモグリバエ)というのが葉の中に住みつき、白い線をうねうねと作ってくれました。おかげで最後のほうは葉はぜんぶ枯れ、茎とさやだけが緑を残していました。
「早く取らないと、実まで食べられてしまう」
あせった栗栖氏の号令のもと、平日の仕事帰りの夜、はさみを手に2人で収穫しました。さやを開けてみると、2粒ほど青虫にかじられていました。危ないところでした。
収穫は約30粒。
器に入れると少なくも感じましたが、7粒から、たった2ヶ月でこれだけ増えたことを考えると、感慨深いものがありました。最初は捨てるつもりだったグリーンピース。その豆から、芽が出てき、また新たな豆をもうけて。1粒の麦もし死なずんば……という言葉を思い出しました。
なんの料理にしようかと迷いましたが、量もあまりないことですし、スープの中に入れることにしました。
小さな豆からは、あおあおとした緑の味がしました。あびた陽光と、まいた水と、作った土の時間の味がしました。
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落ちた青年(3)プレ・ヒーロー
2009.05.17 Sunday
でも、たしかに事件はあったのだ。
未然に防がれた事故が。
今まで考えたこともなかったけれど。
そういうものは、一体この世の中に、いくつあるのだろう――?
事故が大事になったとき。
それは大勢の目撃するところとなり、ニュースになる。もしそれを助けたら、その人は普通では出来ないことをしたと“時の人”となり、“ヒーロー”になる。感謝状も出るかもしれない。
事故が一瞬で解決したら。
人の目に止まらず、ニュースにもならない。よくある小さな事故だし、助けるのなんて、少し頑張れば誰でもできるレベル。まあ無事でよかったねと、すぐに忘れられてしまう。
いわば、ニュースで“ヒーロー”になる以前の、“プレ・ヒーロー”とでも言ったらいいか。
でも、小さな事故は私たちのそこここに散らばっていて。
世の中には、そんなプレ・ヒーローがたくさんいる。
きっといる。
名もなき人の、駆けよった足を、助け上げた手を、私は覚えている。
そして再び他人にもどって、雑踏にまぎれていったプレ・ヒーロー達の後ろ姿に、ありがとう――と、言いたい。
あの青年にとって、あなた方はまぎれもなく“ヒーロー”なのだ。
私にとっても。
未然に防がれた事故が。
今まで考えたこともなかったけれど。
そういうものは、一体この世の中に、いくつあるのだろう――?
事故が大事になったとき。
それは大勢の目撃するところとなり、ニュースになる。もしそれを助けたら、その人は普通では出来ないことをしたと“時の人”となり、“ヒーロー”になる。感謝状も出るかもしれない。
事故が一瞬で解決したら。
人の目に止まらず、ニュースにもならない。よくある小さな事故だし、助けるのなんて、少し頑張れば誰でもできるレベル。まあ無事でよかったねと、すぐに忘れられてしまう。
いわば、ニュースで“ヒーロー”になる以前の、“プレ・ヒーロー”とでも言ったらいいか。
でも、小さな事故は私たちのそこここに散らばっていて。
世の中には、そんなプレ・ヒーローがたくさんいる。
きっといる。
名もなき人の、駆けよった足を、助け上げた手を、私は覚えている。
そして再び他人にもどって、雑踏にまぎれていったプレ・ヒーロー達の後ろ姿に、ありがとう――と、言いたい。
あの青年にとって、あなた方はまぎれもなく“ヒーロー”なのだ。
私にとっても。
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落ちた青年(2)無言
2009.05.16 Saturday
電車にゆられながら、私は自己嫌悪におちいっていた。近くにいたのに、動けなかった。恥ずかしかった。
と同時に、なにか違和感も覚えていた。
私はまわりを見渡した。
同じ車両の、別のドア付近に座っているサラリーマンは、うつむいてコミック雑誌に没頭していた。青年のことに気づいている様子はなかった。
アナウンスもなかった。「電車の乗り降りにご注意ください」とか、そういうたぐいの文句は流れなかった。
「さっきはびっくりしたね」という話し声も、聞こえてこなかった。
車内はいつもの、夕方のけだるい静けさしかなかった。まるで何もなかったかのようだった。
……青年が落ちかけたこの車両で、誰もあれに気づかなかったなんてことが、あるのだろうか?
ありえる、と思った。
助けられた人は無言だった。助けた人も無言だった。起きたのは足元だった。車内に立っている人でもいれば見えないだろうし、座っていればまったく分からなかっただろう。
無言の電車はひた走り、さっきのホームははるか遠くとなっていった。
と同時に、なにか違和感も覚えていた。
私はまわりを見渡した。
同じ車両の、別のドア付近に座っているサラリーマンは、うつむいてコミック雑誌に没頭していた。青年のことに気づいている様子はなかった。
アナウンスもなかった。「電車の乗り降りにご注意ください」とか、そういうたぐいの文句は流れなかった。
「さっきはびっくりしたね」という話し声も、聞こえてこなかった。
車内はいつもの、夕方のけだるい静けさしかなかった。まるで何もなかったかのようだった。
……青年が落ちかけたこの車両で、誰もあれに気づかなかったなんてことが、あるのだろうか?
ありえる、と思った。
助けられた人は無言だった。助けた人も無言だった。起きたのは足元だった。車内に立っている人でもいれば見えないだろうし、座っていればまったく分からなかっただろう。
無言の電車はひた走り、さっきのホームははるか遠くとなっていった。
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落ちた青年(1)それはたった1分間のことだった
2009.05.14 Thursday
仕事帰りの、駅のホーム。いつものように電車が到着して、いつものようにドアが開いた。私はいつものように乗ろうとして、ふと左のほうで、誰かが何か言った気がして、そちらに目をやった。
となりのドア、足元。電車とホームの隙間に、落ちかけている人がいた。大学生くらいの若い男性。
信じられなかった。子供なら分かる。小さいから。
だけど、大人が。あんな隙間に。
ニュースでは聞くことがあるけれど、実際に目の当たりにしたのは初めてだった。
青年は2本の腕だけで、体を支えていた。電車の床と、ホームとに腕をかけ、頭だけ出していた。声は出していなかった。自分の置かれた状況にどう反応していいか分からないような、驚いているとも笑っているともつかない表情をしていた。
周囲は凍りついたように動きを止めていた。それから、我に返った2、3人が青年のもとへ駆けよった。サラリーマン風の男性や、女性。かがみこみ、すっぽりはまっている彼の脇やベルトに手をかけて、引っ張った。
ぐいっと青年はホームに持ち上げられた。
彼は礼を言ったかどうか。記憶では、口は開かなかったと思う。まだパニックだったのか、それとも恥ずかしかったのかは分からない。
助けてあげた人達もまた、何も言わなかった。もしかしたら彼の言葉を待っていたのかもしれない。
皆、しばらく突っ立っていた。そのうち、黙ったまま、それぞれに去っていった。
あっという間の出来事だった。静かに事件は終わった。
私は、ただ、立ちすくんでいた。
ベルがホームに鳴りひびいた。
ドアは、普通の時間内に閉まった。
そして電車は、定刻どおりに出発した。
となりのドア、足元。電車とホームの隙間に、落ちかけている人がいた。大学生くらいの若い男性。
信じられなかった。子供なら分かる。小さいから。
だけど、大人が。あんな隙間に。
ニュースでは聞くことがあるけれど、実際に目の当たりにしたのは初めてだった。
青年は2本の腕だけで、体を支えていた。電車の床と、ホームとに腕をかけ、頭だけ出していた。声は出していなかった。自分の置かれた状況にどう反応していいか分からないような、驚いているとも笑っているともつかない表情をしていた。
周囲は凍りついたように動きを止めていた。それから、我に返った2、3人が青年のもとへ駆けよった。サラリーマン風の男性や、女性。かがみこみ、すっぽりはまっている彼の脇やベルトに手をかけて、引っ張った。
ぐいっと青年はホームに持ち上げられた。
彼は礼を言ったかどうか。記憶では、口は開かなかったと思う。まだパニックだったのか、それとも恥ずかしかったのかは分からない。
助けてあげた人達もまた、何も言わなかった。もしかしたら彼の言葉を待っていたのかもしれない。
皆、しばらく突っ立っていた。そのうち、黙ったまま、それぞれに去っていった。
あっという間の出来事だった。静かに事件は終わった。
私は、ただ、立ちすくんでいた。
ベルがホームに鳴りひびいた。
ドアは、普通の時間内に閉まった。
そして電車は、定刻どおりに出発した。
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空気入れ
2009.05.11 Monday
職場に自転車があります。共有のもので、遠くの棟に行ったりするときに、みんなが使っています。
久しぶりに私が乗ったら、タイヤの空気がなくなっていました。パンクするほどではないけど、そろそろ危ない。
途中で寄り道をし、守衛室の受付で空気入れを貸してください、と声をかけました。
「ちょっと調子が悪いみたいなんだけどね」
と言いながら、守衛さんが置いてある場所を教えてくれました。
なるほど、たしかに空気入れは調子が悪かったです。
握りを上下に動かしても、スカスカした手ごたえしかなく、シューッと抜ける音ばかりで、タイヤはペコペコのまま。
それでも何度もやっていれば、少しはふくらむかもしれない、そう思って動かしていましたが、いっこうに気配がありません。
困ったなあ、もう入ったことにして、返してしまおうかな、と考え始めたとき。
門のところで立っていた守衛さんが、そばに寄ってきました。
「どれ」
すいとしゃがんで、口金と、タイヤのバルブのところを押さえてくれました。私が握りを動かすと、もれていた音が少し静かになっていました。
そのうち受付の中にいた守衛さんも出てきました。「貸して」と手をだすので、空気入れを渡すと、代わりに入れてくれ始めました。
シュ、シュ、シュ。
「これでどうかな」
「全然まだだ」
シュ、シュ、シュ。
「今度は?」
タイヤをチェック。
「うーん、まだだな」
一人はしゃがみこみ、一人は腕を動かす。年配の警備さん二人の、その後ろ姿は無心で、ひたむきでした。
「こんなもんかな」
「なかなか一杯にならないなあ」
しばらくして、守衛さんたちは顔をあげました。
「空気入れの調子が悪くてすまないね」
指で押してみると、タイヤは最初より、ずっと弾力が増していました。
「ああ、充分です。空気、いっぱいに入っています」
「そうかい?」
「はい、どうもありがとうございました」私は頭を下げました。
「お手数をおかけしました」
本当は、完全にタイヤがパンパンになることはなかったのだけれど。私には充分でした。
警備さんたちの、自転車に向かって背中を丸めている姿が、心に残っていました。
ありがとうございます。快適に走れます。
そのうちホームセンターで空気入れを買ってきてあげよう、と思いました。毎回おじさん達が手伝わなくてもいいように。
久しぶりに私が乗ったら、タイヤの空気がなくなっていました。パンクするほどではないけど、そろそろ危ない。
途中で寄り道をし、守衛室の受付で空気入れを貸してください、と声をかけました。
「ちょっと調子が悪いみたいなんだけどね」
と言いながら、守衛さんが置いてある場所を教えてくれました。
なるほど、たしかに空気入れは調子が悪かったです。
握りを上下に動かしても、スカスカした手ごたえしかなく、シューッと抜ける音ばかりで、タイヤはペコペコのまま。
それでも何度もやっていれば、少しはふくらむかもしれない、そう思って動かしていましたが、いっこうに気配がありません。
困ったなあ、もう入ったことにして、返してしまおうかな、と考え始めたとき。
門のところで立っていた守衛さんが、そばに寄ってきました。
「どれ」
すいとしゃがんで、口金と、タイヤのバルブのところを押さえてくれました。私が握りを動かすと、もれていた音が少し静かになっていました。
そのうち受付の中にいた守衛さんも出てきました。「貸して」と手をだすので、空気入れを渡すと、代わりに入れてくれ始めました。
シュ、シュ、シュ。
「これでどうかな」
「全然まだだ」
シュ、シュ、シュ。
「今度は?」
タイヤをチェック。
「うーん、まだだな」
一人はしゃがみこみ、一人は腕を動かす。年配の警備さん二人の、その後ろ姿は無心で、ひたむきでした。
「こんなもんかな」
「なかなか一杯にならないなあ」
しばらくして、守衛さんたちは顔をあげました。
「空気入れの調子が悪くてすまないね」
指で押してみると、タイヤは最初より、ずっと弾力が増していました。
「ああ、充分です。空気、いっぱいに入っています」
「そうかい?」
「はい、どうもありがとうございました」私は頭を下げました。
「お手数をおかけしました」
本当は、完全にタイヤがパンパンになることはなかったのだけれど。私には充分でした。
警備さんたちの、自転車に向かって背中を丸めている姿が、心に残っていました。
ありがとうございます。快適に走れます。
そのうちホームセンターで空気入れを買ってきてあげよう、と思いました。毎回おじさん達が手伝わなくてもいいように。
JUGEMテーマ:仕事のこと