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2015.07.13 Monday

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    しるしではないけれど

    2010.07.31 Saturday

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      猫のひたいほどの裏庭におりたら、ブロック塀に、またトカゲが現れました。
      日影から日向へ。日向へ出るとトカゲは止まり、そのまま日光浴でもするように動かなくなりました。
      先日表にいたトカゲかしら? 裏に移動したのかな? それともここにはトカゲが何匹もいる?(ブルッ!)

      足元にふと目をやると、ローズマリーに、キアゲハが逆さになっていました。
      手をのばせば届くところです。美しい羽でした。顔を近づけても飛び立ちません。日がだいぶのぼってきてはいますが、まだ夢うつつなのでしょうか。枝に止まったままでした。

      わたしはトカゲとキアゲハを交互に見ました。どちらもじっとしていました。

      トカゲも蝶も、もう“しるし”ではないでしょう。
      ただ庭に昆虫がいただけのこと。だって、ここにはバッタもアリもいる。

      でも。
      「……おばあちゃん?」
      わたしは見えない空間に声をかけました。第六感も霊感もないけれど、それでも、そこに何もいないのは分かっていました。
      「ありがとう。わたしは大丈夫だから。元気でね」

      ただ、思いたかったのです。こじつけでもかまわないから。

      ――おばあちゃんが最後のあいさつに来た、と。


      その日、用事があって実家に行きました。
      勝手口にまわろうとすると、地面を、そこでもトカゲが走っていました。
      家の外壁の、高いところには、セミのぬけがらがついていました。

      よくあること。
      実家でもトカゲは5年に1度は見かけるし、セミのぬけがらなんて、毎年見ている。

      もちろん、勝手に想像をふくらませているのは分かっています。
      それでもいい。私は信じたかった。

      ――おばあちゃんは、羽化したのだ――と。

      体をぬぎすて、知人へのあいさつも終わり、次の世界へ行く準備ができましたよと。
      もうそろそろ、本当にさよならですよと。
      そう伝えに来たと。

      空は梅雨も明け、ひたすらに青く、夏本番の暑さがやってきていました。

      来週は、祖母の四十九日の法要です。

       

      スコーンでアイス

      2010.07.29 Thursday

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        「うーん、暑いわ」

        気温が高くなると、クッキーやチョコレートに食指が動かなくなる私です。
        「こういう時は、冷たいものに限るねぇ」
        そして、冷蔵庫にはゼリーやアイスがぎっしりストックされるようになります。

        「でも、たまにはスコーンが食べたいな」
        スコーンミックスの手軽さを知った栗栖氏は、母の日以来、たびたびリクエストしてくるようになりました。
        「あれって作るの簡単だろ? きみの焼きたてのスコーンはおいしいんだよね」
        キラキラとした瞳、全開の笑顔。

        夫をうまく操縦するには笑顔とほめるに限る、と私は本で読みましたが、逆もまた真なりということを、栗栖氏もどこかで(あるいは本能で)会得しているようです。うーん、くやしい (笑)。

        「暑いよ」
        ちょっと抵抗してみます。
        「食べたいな」
        にこにこ。
        「面倒くさいよ」
        「手伝うから」
        「……」

        作りました。
         

        今回は夏バージョン。
        栗栖氏のアイデアで、中にはさむものをジャムではなく、アイスにしてみました。

        スコーンを冷蔵庫で冷ましてから、二つに割り、アイスをはさみます。
        在庫であったレディーボーデンのメープル味でやってみましたが、とてもおいしかったです。
        スコーンの乾いたバターの香りと、アイスの冷たいなめらかさが、絶妙にマッチしていました。

        「メープルアイスは、きっとスコーンに合うと思ったんだ」
        アイデアマンはご満悦。横より縦のほうが長くなったスコーンアイスを、顎をはずしそうにしながら食べていました。
        「夏にはこういうスコーンもいいわねぇ」
        「な? いけるだろ?」
        「うん」
        私は冷えた歯を熱いコーヒーであたためながら、うなづきました。
        お義父さんは、入れ歯でこれにかぶりつくのは難しいと判断したらしく、分解して味わっていました。
        「ん、うまい」

        入れるものや量を自由にアレンジできるのは、手作りのいいところですね。コストも安くすみますし、なにより想像したその通りにおいしいと、うれしいものです。

        スコーンはまだ残っています。アイスも。
        おうちスイーツ、しばらくみんなで楽しめそうです。

         
        JUGEMテーマ:おやつの時間

        しるし

        2010.07.18 Sunday

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          祖母のお葬式がすんだ3日目の、晴れた昼下がり。

          トカゲを見ました。
          アパートの窓の下、コンクリートのところに現れて、器用に縦に歩いていました。
          「あら久しぶり」
          うちではたまにトカゲを見ます。

          よく見ようと近づくと、サッと流れて逃げていきました。
          温かい日差しにさそわれたのでしょうか。

          たまたま一緒だった母に、何気なく、
          「トカゲを見たよ」
          と言ったら、一瞬無言で、それからこう話しました……


          祖母が亡くなった翌朝。
          父が、ヘビを見たそうです。裏口のところで、小さな、30センチくらいのヘビを。

          「ご母堂が来た」
          そう、父は思ったそうです。


          母は信じているのか信じていないのか、はっきりしない口調でした。
          でもわたしの話を聞いて、ヘビの話をしてきたということは、何か感じるものがあったのでしょう。

          そしてわたしも同意見でした。
          「そのヘビ……。おばあちゃん、だね」
          うなづきました。
          「お世話になりました、って挨拶に来たのよ」
          きっとそうだ。

          ん?
          「じゃあ、うちにいたトカゲも、もしかするとおばあちゃん!?」
          えーっ。


          なぜヘビじゃなくてトカゲ。

          ヘビは普段はかわいくないですが、こういう時には亡くなった人の代わりとか、神様の使いをするイメージがします。
          でもトカゲは……格段に神々しさが落ちる気がするんですけども。
          うちの近所に手ごろなヘビがいなかったのかしら?
          うーん。


          その疑問を、夜、仕事から帰ってきた栗栖氏に話してみました。

          「なんでトカゲだったんだと思う?」
          わたしが聞くと、
          「そうだなあ」
          栗栖氏はふうんと考えてから、すました顔でこう答えました。

          「うちは、きみの実家からはちょっと遠いから、 “足”がないと来れなかったのさ」

          なるほど☆


          =======
          後日談:叔母もヘビを見たそうです。裏庭で、しっぽだけ。怖くなって叔母はすぐ離れたそうですが。

           

          さよなら、おばあちゃん

          2010.07.15 Thursday

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            母方の祖母が亡くなりました。

            連絡を受けて病院へかけつけましたが、間に合いませんでした。廊下の椅子に、わたしの両親と、世話をしていた叔母夫婦がひっそりと座っていました。
            「お疲れ様でした」
            叔母夫婦に、頭を下げました。

            覚悟はしていたけど、まさか今日なんて――。悪い夢の中にいるような、どこかフワフワしたかんじでした。
            でも両親たちのこの悲しみに沈んだ空気は、現実のものでした。


            祖母は大正生まれでした。
            夫を戦争で失い、小さい娘2人を抱えた祖母は、お針子や畑をやりながら生活をやりくりしました。早朝、浜に出て地引網を手伝い、魚をもらったりもしたそうです。
            パワフルな人でした。声も体も大きく(幼かったわたしにとって)、気持ちが大らかな人でした。


            ――昔のことを思い出します。

            子供の頃、よく遊びに行ったっけ。実家に近かった祖母の家は、わたしと年の近い従兄妹がいるせいもあり、かっこうの遊び場でした。
            裏の畑で、つば広の麦藁帽子をかぶって、腰をかがめてクワをふるっている祖母の姿をおぼえています。首には手ぬぐいを巻き、顔からは大粒の汗がふき出ていました。

            よくみんなで野菜を採るのを手伝い、井戸で洗ったものです。祖母の野菜はどれも、あおあおとした大地の匂いがしました。


            祖母はまた、お惣菜をたくさん作って、我が家におすそわけをしてくれたりもしました。
            電話がくると、母は「夕飯の準備をしちゃったわ」と困りながらも、いそいそと途中の道まで受け取りに行きました。
            私もよく行かされました。自転車をよっこらしょよっこらしょとこいでいる彼女の姿は、遠くからでもすぐ分かりました。

            風呂敷に包まれたそれらは野菜の煮しめだったり、ちらし寿司だったり。
            今では誰も作れなくなっている“おばあちゃんの味”です。


            祖母はいつも元気で、病気らしい病気はしたことはありませんでした。畑仕事からくる腰痛で、たまに近所の針に通っていたくらいでした。

            ある日突然、祖母は倒れました。
            そのまま意識は戻りませんでした。それから約10年間、祖母はずっと寝たきりになったのです――。


            ――わたしは病室に入りました。両親や叔母夫婦も続きました。

            約10年の歳月は、真っ黒に日焼けしていた丸い祖母を、白く、細くさせていました。
            そっと額に触れるとまだ温かく、眠っているかのようでした。

            おばあちゃん、おばあちゃん……。
            こみあがる思いは言葉にならず、ただ涙となってわたしの目からあふれ出ました。

            病室は静かでした。
            カーテン越しに、隣のベッドの人の寝息が聞こえていました。

            祖母はどこかでわたしたちを見ているのだろうか、と思いました。
            祖父はちゃんと祖母を迎えに来ただろうか、とも。
            そうだといいな。本当にそうだといい。

            わたしはゆっくりと合掌をしました。

            長い間、お疲れ様でした。
            ありがとうございました。
            またいつか、お会いましょう。

             
            JUGEMテーマ:日記・一般
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