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  • 2009.08.16 Sunday
栗栖氏の会社のご友人、ヒゲさん。趣味は釣り。
毎週のように釣りに行き、この連休ももちろん釣り三昧。
奥さんは「もう食べ飽きた」そうで、受け皿が我が家に回ってきました。

「もらってきた」
と栗栖氏。家をちょっと出たと思ったら、ビニール袋を下げて戻ってきました。釣り帰りのヒゲさんが、車で届けてくれたのだそう。
「何の魚だったの?」
「鮎」
「ああ、鮎」
うなずいたものの、鮎なんて求肥の入った和菓子の鮎くらいしか知りません。
どうしよう。塩焼きにすればいいのかな。
などと考えていたら。

「これさ」
ビニール袋をかかげて、栗栖氏がいたずらっぽく笑いました。
「生きてる」
「えっ!!」
袋から、ピシャッと水がはねる音がしました。

もらった鮎は10匹ほど。小ぶりで20センチくらい。横腹が黄色いのは、天然ものの証だそうです。
半分くらいは死んでいましたが、残りの半分は生きていました。
スーパーのパックになっている魚ならしょっちゅう見ているけど……。
とりあえず、流しの洗い桶に袋をあけました。

死んだものは底に沈んでいき、生きているものは広くなった水の中を上に下にと泳ぎ始めました。
大きな1匹だけは具合が悪そうで横になり、たまに腹を上に向けては我に返って起きるといった動作をくり返していました。
 

鮎が泳ぐところは、デパートなどでよく目にするような、水槽を青や黄色の熱帯魚たちがハタハタと舞いひらめく優雅な姿とはほど遠いのものでした。

いかに速く泳ぐかが魚なのである、と主張しているかのような弾丸のごとき動き。流線型というのは、なるほど水の抵抗を最小限にしてあるのだなと感心しました。
かと思うとこちらの様子をうかがうみたいにじっとして、時おりひらりひらりとする。また早回しのようになって、そこらじゅうに水をはね散らかす。

なんともエネルギッシュで、見ていてほれぼれしました。

たまに勢いのあるのが外に飛び出て、私をあわてさせました。
バシャッと水が言ったかと思うと、流しでバタバタバタッとたたきつける音。
走っていくと流しの中を身をよじらせてはね回っています。つかまえようとしても、小さな体のどこにこんな力があるのかというような暴れようで、手がつけられません。やっとの思いで両手でつかんでも、ぬめりがあるため、すぐにつるりと抜けてしまいます。
眠っていた狩猟本能がかきたてられました。

脱走者を戻したあとは、常に床のぞうきんがけでした。


――その晩さばかれた鮎は、刺身になりました。
「川魚なのに生臭くない」
「コリコリしている」
魚好きの男たちは、箸でつまみながら舌鼓をうっていました。

私は、ついさっきまで泳いでいた鮎たちの変わり果てた姿に動揺しつつ、ちびちびと味わいました。
食べること、生きること、命などについて、ちょっぴり考えたりもしました。
刺身は新鮮で、薬味のしょうがとしょうゆがよく合い、おいしかったです……。


翌日、鮎のいくらかは実家に持っていかれ、両親に喜ばれました。
夕飯ではこんどは塩焼きにされ、我が家の食卓を再びにぎわしました。
栗栖氏は料理をデジカメで撮り、ヒゲさんにお礼のメールをしました。

鮎はこうして皆のお腹におさまり、無事(?)いなくなりました。
 
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  • 2009.06.22 Monday
家を出るとき霧雨だった空は、そのまま雨にはならずに、駅に着いた時も細かい粒をまき散らし続けていました。

電車の中は暖かい湿気に満ちていました。私は結局使わずにすんだ折りたたみ傘をバッグにしまいました。
窓の外は、霧がかかっていました。遠くの建物は上がかすみ、もっと遠くの山々は白くぶ厚い壁の向こうに隠れています。

いつも見ていた伸びていく高速道路も、隣町の民家の屋根の海も、今日はありません。
不思議なかんじです。なんだかこの町が霧で遮断され、ぽつりと孤立して途方にくれているみたいでした。

もしかしたら、もう向こうは別世界になっているのかもしれません。
電車の音につられて、今にもどこかからユニコーンの群れが轟きをあげて走ってきそうです。空をちらりとかすめたのは、天を泳ぐ竜でしょうか。道行く人は、ひょいと手の傘にまたがって、飛び立ちそうな気配です。
電車は霧の中をひた走り、知らない土地へと私達を運んでいくようです……


もちろんそんなことはなく。
電車はしだいに速度を落とし、いつもの駅に到着しました。いち早く乗りこもうとするホームの客をかき分けて降り、他の皆とどやどやと階段を上っているうちに、ファンタジーは背後へ遠ざかっていきました。

電車がホームを出ていきました。
上からそれを見送りながら、ふと思いました。あの電車は、ちゃんと次の駅に着くのだろうか。それとも、私達が行くはずだったどこか知らない所へ、今度こそ向かうのだろうか――

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3月下旬にまいたグリーンピース。
1つのさやから出たのは8粒の豆。それが芽をだし、1本だけは枯れましたが、残りの7本は元気に伸びてくれました。

始めた時期が遅かったからか、他のところで見る苗より高さが半分くらいしかなく、私をくやしがらせましたが、低いなりにちゃんと葉をつけ、つるを伸ばし、花を咲かせてくれました。
その成長には驚くばかりで、土に植えてから1ヶ月半には花をつけているのですから、まさにあれよあれよというかんじでした。私と栗栖氏は、目を細くして見守るというよりは、目を丸くして見つめていました。

花が落ちてからがまた早かった。小さかったさやが、中の実の形がわかるくらいふくらむのに1週間もかかりませんでした。
「3日で普通のさやの大きさになるんだよ」
毎日観察していた栗栖氏は、感心したように報告してくれました。

心配だったのは虫でした。アブラムシはつかなかったのですが、エカキムシ(ハモグリバエ)というのが葉の中に住みつき、白い線をうねうねと作ってくれました。おかげで最後のほうは葉はぜんぶ枯れ、茎とさやだけが緑を残していました。

「早く取らないと、実まで食べられてしまう」
あせった栗栖氏の号令のもと、平日の仕事帰りの夜、はさみを手に2人で収穫しました。さやを開けてみると、2粒ほど青虫にかじられていました。危ないところでした。
 


収穫は約30粒。
器に入れると少なくも感じましたが、7粒から、たった2ヶ月でこれだけ増えたことを考えると、感慨深いものがありました。最初は捨てるつもりだったグリーンピース。その豆から、芽が出てき、また新たな豆をもうけて。1粒の麦もし死なずんば……という言葉を思い出しました。

なんの料理にしようかと迷いましたが、量もあまりないことですし、スープの中に入れることにしました。
小さな豆からは、あおあおとした緑の味がしました。あびた陽光と、まいた水と、作った土の時間の味がしました。
 
 
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グリーンピースを買ったら、ひとつ、黒いさやが混ざっていました。
中を開けると、きゅうくつそうに並んだ実がぎっしり。その全部から、白い根がひょこひょことシッポを出していました。
これでは食べれません。

捨てるのももったいないので、土に植えてみることにしました。

豆の成長の早さには驚かされます。
台所の窓辺に置いていましたが、見るたびに、少しずつ変化していました。
今日は実が割れた。今日は葉が出た。今日は茎が伸びた。たたんでいた葉が広がった。
毎日、栗栖氏と台所仕事をしながら、豆をのぞきこむのが楽しみになっていました。

すくすく育っていくグリーンピースは、生命力にあふれています。
見ていてわくわくさせられました。
最終的に実をつけるか。一品できるくらい収穫できるか。それは途中から、どうでもいいことになっていました。
たぶん、人が子供を育てるのも、ペットを飼うのも、それを見たいからではないでしょうか。生命の輝き。成長していく姿。
そんなことを考えたりもしました。

つるが出てきて、それまでまっすぐだった茎がわずかに曲がり、なんとなく壁を探るような風になったとき、そろそろ移植だなと思いました。

週末、栗栖氏と二人で、プランターに移し変えました。支柱も立ててあげました。

数日たって、栗栖氏が首をかしげて言いました。
「みんな、つるを支柱のほうに伸ばしてきているんだよ。まっすぐじゃなくてさ。なんで分かるんだろう?」
生命は不思議に満ちています。

明日は支柱につるが届いているでしょうか。一番早いのはどれでしょう?
朝の水やりの時に、確認してみることにしましょう。


植物園の片すみで。

河津桜が、満開でした。

「河津のよりも、よく咲いている」
年配の女性が、なんだかおかしそうに笑いながら、ご主人と並んでほれぼれと見上げています。

本当に、見事に咲いています。


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